§ F80は、1984年のGTOから2016年のLaFerrari Apertaまでの名高いモデルに加わることを運命づけられた、フェラーリの新スーパーカー
§ F80は、フェラーリのテクノロジーとパフォーマンスの究極形であり、極限まで開発を進めた内燃エンジンを搭載
§ F80に搭載するV6ハイブリッド・パワートレインは、フェラーリ・ファクトリーのゲートから現れたロードカー史上最もパワフルな総最高出力1200 cv
§ F80に盛り込まれた数多くの先進的なソリューションで、卓越したイノベーションとエンジニアリングの新たなベンチマークを確立
2024年10月17日、マラネッロ発 本日フェラーリは、F80を発表し、跳ね馬のバッジを付けた伝説的スーパーカーの歴史に新たな一章を書き加えました。F80は、限定799台製造され、マラネッロが築き上げてきたテクノロジーとパフォーマンスの最高の形として、GTO、F40、LaFerrariといったアイコンの殿堂に加わります。
フェラーリは1984年以来、その時代における最先端テクノロジーとイノベーションを極めた新たなスーパーカー、ポップカルチャーで神格化されることが運命づけられたモデルを、数年おきに発表してきました。フェラーリ・ブランドの最も目の肥えたクライアントを対象とするこうしたモデルは、登場と同時にたちまち各時代の伝説となり、フェラーリの歴史はもとより自動車史全体においても消えることのない足跡を残してきました。
このファミリーに加わる最新モデルとしてF80に課せられたのは、内燃エンジン搭載モデルの究極のエンジニアリングを体現し、新世代のハイブリッド・パワートレイン・テクノロジーなど、最も先進的なソリューションをすべて活用して、並ぶもののないパワーとトルクを実現することでした。アーキテクチャーのあらゆる側面が、パフォーマンスの最大化を目指して構想されました。公道走行可能なモデルでこれまでに目にしたものを大きく超越する、カーボン・ファイバー製シャシーと究極の空力ソリューションや、ドライバーがサーキットで車両のパフォーマンスを一滴残らず絞り出せるように最適化された新アクティブ・サスペンションを擁します。
現在のスーパーカー界のどのモデルとも異なり、F80は、こうしたすべての特質と、公道で軽々とドライブできる妥協のない使いやすさを兼ね備えています。この能力が、テクノロジーとアーキテクチャーに関するあらゆる選択を決定づけました。目指したのは、サーキット志向のスーパーカーでありながら、プロダクションモデルと同等に運転しやすいモデルという、一見不可能に思える目標の達成です。
これは、ドライバーがより長い時間を車両の中で過ごし、車両を知り尽くして、そのパフォーマンスとドライビング・エクスペリエンスを心ゆくまで謳歌できることを意味します。F80のアーキテクチャーは非常に過激なため、幅の狭まったキャビンでドライバーを中心とするレイアウトが選ばれましたが、パッセンジャーのスペースと快適性も優れています。この選択は、ドラッグと重量の最小化に大きなメリットをもたらしました。
したがって、定員は2名ですが、コックピットにはシングルシーターのような独特の雰囲気が漂い、「1+」とも呼べるアーキテクチャーが生まれました。車幅を最低限に抑えた最大の理由は、空力上のメリット(ドラッグの低減)と軽量化にありました。これは完全にモータースポーツに従ったコンセプトです。F80は、モータースポーツからインスピレーションを得ただけでなく、数々の技術的ソリューションも受け継いでいるのです。
先代のフェラーリ・スーパーカーが常にそうだったように、F80のパワートレインも、モータースポーツで使われている最高の形式をベースにしています。GTOとF40でターボV8を搭載していたのは、1980年代のF1マシンでターボエンジンが使われていたからです。現在、F1でもFIA世界耐久選手権(WEC)でも、パワートレインはV6内燃エンジンと800Vのハイブリッド・システムの組み合わせです。したがって、このアーキテクチャー、つまりル・マン24時間レースで2連覇を果たした499Pと同じアーキテクチャーを、新F80に転用することは、ごく自然な選択でした。
ただしF80のパワートレインでは、フェラーリ史上初めて、電動ターボ技術(eターボ)を導入しています。これは、各ターボチャージャーのタービンとコンプレッサーの間に電気モーターを組み込むもので、並外れた比出力と、低回転域からの瞬時のレスポンスを可能にします。
エアロダイナミクスも、F80で重要な役割を演じています。アクティブ・リア・ウィングやリア・ディフューザー、フラット・アンダーボディ、トライプレーン型フロント・ウィング、Sダクトといったソリューションが連携して働き、車速250 km/hで1050 kgのダウンフォースを発生します。これをさらに強化しているのがアクティブ・サスペンションで、グラウンド・エフェクトの発生に直接貢献しています。また、電動フロント・アクスルによって四輪駆動が可能なため、持てるトルクとパワーをいっそう効果的に活用でき、モータースポーツ由来のCCM-R Plus技術を擁する新ブレーキも加わって、パフォーマンスを押し上げています。
先代のすべてのスーパーカーと同じように、F80はフェラーリのデザインに新時代の幕を開け、いっそう張りつめた過激なデザイン要素によって、レース生まれという本質を強調しています。また、明らかに航空宇宙分野を思わせる要素もあり、それによって最先端のテクノロジーと、あらゆるソリューションを支える洗練されたエンジニアリングを強調しています。加えて、崇拝されてきた数々の先代モデルへのオマージュも盛り込んで、F80が名高い血筋に連なることを高らかに宣言しています。
パワートレイン
F80に搭載されるのは、3リッター、バンク角120°のF163CF型V6エンジンで、フェラーリ6気筒エンジンの究極形です。このユニットの最高出力は驚異の900 cv、比出力はフェラーリエンジン史上最高の300 cv/Lで、これに電動フロント・アクスル(e-4WD)とリア・モーター(MGU-K)によるハイブリッド・システムが300 cvを上乗せします。
モータースポーツ、とりわけ耐久レースとのつながりは非常に強く、このエンジンのアーキテクチャーと多くのコンポーネントは、過去2年のル・マン24時間レースを制している499Pのパワープラントと非常に密接な関係にあります。FIA世界耐久選手権(WEC)を戦うマシンとの共通点として、アーキテクチャー、クランクケース、タイミング・システムのレイアウトおよび駆動チェーン、オイルポンプの回収回路、ベアリング、インジェクター、GDIポンプなどが挙げられます。
当然ながら、F1から転用されたテクノロジーもあり、MGU-K(フェラーリのF1マシンで使われているものと同様で量産可能なユニットを開発)と、専用設計のeターボを取り入れたMGU-H(排気の熱エネルギーで回転するタービンの余剰運動エネルギーを回生)のコンセプトをいずれも受け継いでいます。
考え得るあらゆる状況でパフォーマンスを最大化するため、エンジン・キャリブレーションのすべての側面を極限まで押し上げました。特に力を注いだのが、点火および噴射タイミング、1ストロークあたりの噴射回数、可変バルブ・タイミングのマネージメントです。F80のエンジンには、フェラーリのロードカー用エンジンで初めて、ノッキングの統計的制御に新たな手法を取り入れました。これによってノック限界にさらに近づけてエンジンを稼動できるため、燃焼室内で史上最も高い圧力を使い(296 GTBとの比較で+20%)、エンジンのポテンシャルをさらに解き放つことが可能となりました。
もう一つ重要な点が、各ギアのトルクカーブの動的キャリブレーションです。これはフェラーリ・ロードカーで史上初めての取り組みでした。ここでは、実際に公道を走行する状況とeターボ・システムのマネージメントが重点となりました。ノック限界とコンプレッサーのサージ限界は、計測を行うのが動的状況か静的状況かで異なるからです。この研究によって、各ギアの専用キャリブレーションが開発され、その結果、エンジンのレスポンスは、あらゆる作動状況で自然吸気エンジンに匹敵するレベルとなりました。
eターボは、タービンとコンプレッサー・ハウジングの間の同軸上に電気モーターを備えます。そのためエンジニアは、中・高回転域で最大のパワーを発揮するようにエンジンの流体力学を最適化できました。通常なら低回転域でのターボラグが伴いますが、その点で妥協する必要はありませんでした。電力の利用によって、eターボのマネージメント戦略でターボラグをなくし、電光石火のレスポンス時間を確保することが可能となったのです。
GDIシステムの噴射圧は350バールで、インジェクターを燃焼室の中央に配して混合気を最適化し、マルチ・イグニッション戦略の効果もあり、優れた効率性で、並外れたパフォーマンスとCO2排出量の低減を実現しています。また、吸排気カム・プロフィールの改良によって、流体力学的効率を最適化し、最高回転数を9000 rpm、動的リミッターを9200 rpmに引き上げられました。
吸排気いずれの経路もパフォーマンス向上のため研磨されています。抵抗を抑え、流体力学的デチューンで混合気を冷却するために、吸気管は短縮し、燃焼室内の撹拌を高める特別な設計となっています。排気経路には3ブリック(マトリックス)を用い、現行の排出ガス基準(ユーロ6E-bis)に準拠するのはもちろん、世界レベルの排出ガス規制の将来的な進展を既に考慮に入れています。
インコネル®製エグゾースト・マニホールドは、圧力損失を最小化する設計で、フェラーリV6独特のサウンドを強調するようチューンしています。スチール製クランクシャフトは、金型鋳造品を機械加工したものです。熱間鍛造のクランクピンは120°オフセットし、1-6-3-4-2-5の点火順序によって、F80はフェラーリ特有の音色を響かせます。重量削減のため、クランクウェブとカウンターウェイトは軽量化しました。
コネクティングロッドとピストンも改良されています。チタン製コンロッドは、ビッグエンドのキャップ部とロッド部との接続面を鋸歯状にして、両パーツの完璧なアラインメントとベアリング組み付けの絶対的精度を確保しています。ピストンはアルミニウム製で、重量を削減しつつ、極めて高いトルクと出力によって増大した燃焼室内の圧力と熱負荷に耐えられるよう、最適化しています。特にピストンピンには、高強度のDCL(ダイヤモンド・ライク・カーボン)コーティングを施しています。加えて、ピストンピンとコンロッドが接する部分に専用のオイル流路を設けて潤滑を向上させました。
車両の重心を下げるため、エンジンは物理的に可能な限りフラット・アンダートレイに近い位置に搭載しています。そのため、サンプの底のコンポーネントは、クランクシャフトの中心線から下に100 mmの範囲内にすべて配置されています。また、エンジン・トランスミッションユニットをギアボックスが高くなる方向にZ軸で1.3°傾けて、アンダーボディの空力効率を損ねないようにしています。
エンジンを軽量化するため、シリンダーブロック、クランクケース、タイミングカバーなどのコンポーネントを見直し、チタン製ネジも採用しました。こうした措置によって、296 GTBのV6より重量を増加させずに、出力を237 cv引き上げられました。
エンジン・トランスミッションユニットの低い搭載位置は、このモデルのために新フライホイールをゼロから構想・設計して小径化したことで可能になりました。この革新的ソリューションを支えているのが2組のスプリングで、システム全体の剛性の低下と、トランスミッションに伝わる振動の効果的な除去にも貢献しています。ダンパーもこのモデルのため特別に開発され、駆動系で高まったねじり振動を抑え、パフォーマンス向上で高まった熱負荷を放散させる働きをしています。
F80に搭載する電気モーターは、開発・テスト・製造のすべてをフェラーリがマラネッロで行った最初のユニットです。すべて、パフォーマンスの最大化と重量削減を明確な目標に掲げて行われました。モーターはフロント・アクスルに2基、リアに1基を搭載し、その設計には、フェラーリのレースでの経験が直接生かされています。磁石を特殊な配列で並べて磁界の強さを最大化するハルバッハ配列を用いたステーターとローターや、カーボン・ファイバー製磁石スリーブといったソリューションは、すべてF1で使われているMGU-Kユニットの設計から生まれました。
ローターは、ハルバッハ配列技術を採用して、磁束密度を最大化し、重量と慣性を最小化しました。一方、カーボン・ファイバー製磁石スリーブによって、モーターの最高回転数を30,000 rpmに引き上げています。ステーターは集中巻き方式で、コイルエンド部の銅線の重量を削減し、リッツ線を用いて高周波領域の損失を最小化しています。リッツ線は、1本のワイヤーではなく、絶縁された複数の束で構成されているため、「表皮効果」が抑えられ、ワイヤーの横断面全体で電流がむらなく流れるため、損失を最小化できるのです。また、ステーターの作動パーツすべてに樹脂コーティングを施し、放熱を促進しています。
DC/DCコンバーターは、ある直流電圧を別の直流電圧に変換する装置です。この革新的技術によって、1基のコンポーネントで800 V、48 V、12 Vという3種類の電圧を同時に扱うことが可能となりました。
フェラーリのコンバーターによって、高電圧バッテリーからの800 Vの直流は、48 Vの直流に変換されてアクティブ・サスペンションとeターボ・システムの電源となり、12 Vの直流に変換されて電子制御ユニットなど電気を使う補機類の電源となります。革新的な共振技術によって、遅延時間なし、98%を超える変換効率で電圧を変換でき、事実上、蓄電池と同じ働きをします。このコンポーネントによって48 Vバッテリーが不要になり、重量のセーブと電気システムの単純化につながりました。
もう一つフェラーリ社内で完全に開発・製造されたのが、2基の電気モーターとインバーター、一体型冷却システムを内蔵するフロント・アクスルです。このコンポーネントで、前輪のトルク・ベクタリングが可能になります。異なる機能を1個のコンポーネントに統合し、新たなメカニカル・レイアウトを採用したことで、重量は従来に比べ約14 kg減少し、総重量がわずか61.5 kgになりました。最大の目標は機械効率の最適化でした。低粘度オイル(シェルE6+)と、オイルタンクを車軸に直接組み込むドライサンプ式アクティブ潤滑システムで、機械的出力損失を20%引き下げています。また、高接触比(HCR)歯車の採用が、10 dBの騒音低下に貢献しています。
高電圧バッテリーからの直流を、電気モーターの駆動に必要な交流に変換するのがインバーターです。フロント・アクスルに組み込まれたこのインバーターは双方向性のため、回生ブレーキによって車軸で発生した交流から、バッテリーの再充電に使える直流への変換もできます。電力を変換し、2基のフロント・モーターを制御するインバーターは、合計210 kWの出力をフロント・アクスルに供給する能力を持ちます。F80では、インバーターは車軸に直接組み込まれており、重さわずか9 kgで、SF90 Stradaleのコンポーネントより重量を削減することに貢献しています。
もう1基のインバーターは、リアの電気モーター(MGU-K)で使われます。これには3つの機能があります。内燃エンジンの始動、回生エネルギーによる高電圧バッテリーの充電、特定の動的状況におけるエンジントルクの補助です。回生モードでは最大70 kWの発電能力があり、最高出力60 kWで内燃エンジンをアシストします。前後のインバーターには、フェラーリ・パワー・パック(FPP)システムが組み込まれています。これは、電力変換に必要なすべての要素を可能な限りコンパクトなユニットに収めたパワーモジュールです。このユニットは、6個のシリコンカーバイド(SiC)モジュールとゲートドライバー基板、専用冷却システムで構成されています。
エネルギー貯蔵システムの中核である高電圧バッテリーは、非常に高い電力密度となるように考案されました。バッテリーの革新的設計は、3つの原理に支えられています。F1から引き継いだリチウム電池化学、モノコック型ケーシングへのカーボン・ファイバーの多用、そして、ユニットの重量と容量を最小化する特許取得の設計・組立手法(セル・トゥ・パック)です。バッテリーパックは、エンジンベイの低い位置に搭載されており、車両全体の重心を下げて、車両の動的挙動のさらなる向上に貢献しています。電気回路と油圧回路のコネクターはすべてこのコンポーネントに内蔵し、ケーブルと配管を短縮しています。バッテリーパックを構成する204個のセルは直列につながれ、3個のモジュールに均等に分割されており、バッテリーの合計容量は2.3kWh、最高出力は242 kWです。
最後に、電気系コンポーネントと内部の電子系コンポーネントの統合を向上させるため、フェラーリが開発したCSC(セル・センシング・サーキット)ワイヤレス・センサー・スイートも重要で、ばね式接続端子でセルの電圧を監視し、赤外線センサーでセルの温度を測定します。
エアロダイナミクス
F80では、空力パフォーマンスがフェラーリ・ロードカーで未だかつて見たことのないレベルにまで押し上げられました。発生するダウンフォースは、車速250 km/hで1050 kgにおよびます。この驚異的な成果は、車両アーキテクチャーの決定に際して、フェラーリ社内のすべての部門が完璧に連携したことで可能となりました。どの部門でも、ダウンフォースと最高速の完璧なバランスを基盤に設計上の選択を行った結果、真のスーパーカーにふさわしい究極のソリューション群が形作られたのです。
F80のフロントエンドは、総ダウンフォースのうち460 kgを車速250 km/hで発生します。F1とFIA世界耐久選手権(WEC)で採用されている空力コンセプトを基に、このモデルのために再解釈して、全体の設計を支える土台としました。まず、レーシングカー同様に大きく後傾したドライビングポジションによって、シャシーのセンター・キールを高くしました。また、冷却システムのレイアウトによって、車両の中央部を完全に開放して、ほかの機能に使えるスペースを最大限確保しました。
ボディカラーをあしらったノーズ中央部は、広大な面積を持つフロント・ウィングのメインプレーンとして働きます。Sダクト内部には2枚のフラップがあり、メインプレーンと共にトライプレーン型ウィングを形成しています。湾曲やブロワー・スロットは明らかに499Pを踏襲したものです。フロントのエアロダイナミクスで大きな効果を発揮しているのが、トライプレーンとSダクトが完璧に調和して働くことと、高いセンター・キールによって、ウィングへの気流を妨げるものを最小限にし、パフォーマンスを最大化していることです。
その結果、アンダーボディとバンパーからの気流は縦方向に勢いよく拡大され、ダクトによって再びフロント・ボンネットへ導かれるため、上向きの強力な流れが発生し、アンダーボディの下にパワフルな低圧力ゾーンが生まれます。この効果は、フロントで発生する最大ダウンフォース460 kgのうち150 kgを発生しますが、グラウンド・クリアランスに対して非常に敏感です。そのため、アクティブ・サスペンションで空力バランスを確保しています。アクティブ・サスペンションは、車両の挙動をリアルタイムで制御し、走行する状況に応じてアンダーボディと路面との間隔を調整します。
ドライバーの足の下の空間が開放されたことで、3組のバージボードを備えるスペースも生まれました。このバージボードは密集した強力なボルテックスを生成し、これによって気流フィールドに外向きの速度成分が加わります。このアウトウォッシュはアンダーボディの吸引力を増大するだけでなく、気流の阻害を抑え、フロント・トライプレーンのパフォーマンスを引き上げます。ほかにもバージボードには、フロント・タイヤの後流を閉じ込め、アンダーボディから引き離し、後流の悪影響を抑え、リアに導かれる気流をクリーンに保つ働きもあります。
車体のリアでは、車速250 km/hで残りの590 kgのダウンフォースを発生します。この空力パフォーマンスは、リア・ウィング・ディフューザーシステムの相互作用によるものです。このシステムの効率性は、ドラッグにほとんど影響を与えないアンダーボディでいかに大きなダウンフォースを発生できるかで大きく左右されます。
F80のディフューザーのパフォーマンスレベルを極限まで引き上げるため、ディフューザー自体の膨張スペースを最大限に確保する必要がありました。これは、エンジン・ギアボックスユニットをZ軸方向に1.3°傾ける搭載方法と、リアのシャシーとサスペンション・コンポーネントの構造で実現しました。ディフューザーが上向きに湾曲し始めるポイントを前方に寄せた結果、ディフューザーの全長は新記録の1800 mmに達しました。従って、車体下に広大な低圧力ゾーンが生まれ、膨大な量の空気をアンダーボディエリアに引き込めます。
シャシーの形状とカーブした細いシルによって、アンダーボディ周辺を空力的にシールする効果を生み出しています。サイドボディに密着した流れを捕らえるダクトを形成して、リアのホイールアーチ内に空気を吹き込み、サスペンションのロワー・アームの下へ流すのです。この気流とディフューザー外側のストレーキとの相互作用で、タイヤと路面が接触するエリアで発生する渦流に干渉し、空気がディフューザーの奥まで入り込むことを防いでいます。こうしたソリューションが完璧な調和で機能した結果、ディフューザー単独で発生するダウンフォースは285 kg、つまりリア・アクスル全体のダウンフォースの50%以上に達しています。
アクティブ・ウィングは、F80のビジュアルで最も特徴的なエアロパーツであり、このモデルの空力コンセプト全体を完成させる要素です。ダウンフォースとドラッグを精密に操るため、リア・ウィングのアクチュエーター・システムが、高さだけでなく仰角も、絶え間なくダイナミックに調整します。ハイ・ダウンフォース(HD)は、ブレーキング、ターンイン、コーナリングで使われる仕様で、ウィングが気流の角度に対して11°に傾いて、車速250 km/hで180 kgを超えるダウンフォースを発生します。
ウィングの回転範囲の正反対に位置するのがロー・ドラッグ(LD)仕様で、先端が上方向へ傾きます。この仕様でドラッグが大幅に下がる理由は、リフトが低減するためだけでなく、残った低圧力ゾーンがウィングの下面で阻害して、牽引効果が発生するためです。
リア・ウィングは、順応性のあるエアロ・システム全体の中枢であり、これによってF80は、あらゆる動的状況に適応できます。動的状況は、様々な車両制御システムがリアルタイムで監視・評価します。加速、速度、操舵角といったドライバーからの要求に応じて、ダウンフォース、空力バランス、ドラッグの最適なブレンドをシステムが決定し、アクティブ・サスペンションとアクティブ・エアロ・システムに指示を送って、それに即した理想的な挙動を実現します。エアロ・システムでは、リア・ウィングの仰角と、フロント・トライプレーン下の「アクティブ・リバース・ガーニー」フラップの作動状況を制御します。
アクティブ・リバース・ガーニーのフラップには2種類の位置があり、これによってフロントのダウンフォースとドラッグの制御も可能になりました。フラップが閉じる位置では最大のダウンフォースを発生する一方で、開く位置ではフラップが気流に対して適切な角度を取って、F1のDRSシステムと同様の仕組みでアンダーボディをストールさせ、ドラッグを低減して、トップスピードを引き上げるのです。
熱管理
冷却システムのレイアウト決定には、エンジン(パフォーマンス走行で排出が必要な熱量は200 kW以上)と新ハイブリッド・システムの熱管理を、空力上の要請に従った形で実現するため、徹底的な研究と細心の注意を払った開発が求められました。目標は、全体のパッケージングへの影響を最小限に抑えつつ、F80で求められる空力と熱管理のいずれの要求にも完璧に応える、機能的にも空力的にも優れた冷却システムを設計することでした。
各種ラジエーターは、低温の空気の流れを最大限に促進しつつ、高温の空気による干渉を最小限に抑えて、熱交換効率を高める最適な場所に配置されました。また、車両全体の熱平衡を改善するため、数々の革新的なソリューションが採用されました。例えばフロント・ウィンドウには、48 V回路の電力を使用して曇りを除去する透明なフィルムを埋め込んで、空調システムの電力需要を削減しています。加えて、クライメート・コントロール回路は電動のバルブで制御し、HVB回路のニーズに応じて冷媒の流量を調整して、エネルギー・マネージメントを向上させています。
フロントには、クライメート・コントロール、バッテリー、アクティブ・サスペンション回路用のコンデンサーを2基、V6を冷却する高温ラジエーターを3基搭載します。そのうち2基は側面に沿って外寄りに配置して、アンダーボディとヘッドライトの間の空間を最大限に有効活用しています。一方、3基目は中央にあり、トライプレーンで発生する上昇気流を利用して十分な気流を確保しています。
高温の気流の排出は、フロントのエアロダイナミクスを阻害したり、リアへ向かう冷却エアの流れに干渉したりしないように最適化されました。両サイドのラジエーターの主要な排気口は、タイヤハウス内にあります。これは、気流の阻害を最小限にしつつ、ラジエーターの優れた透過性を確保するソリューションです。もう一つの開口部はフロント・フェンダーの側面、タイヤの前方にあり、タイヤの後流を抑え込むと同時に、高温の空気をタイヤの外側へ導いています。中央ラジエーターからの熱は、バンパーとフロント・ボンネットの間の空間に排出されるため、Sダクトから出る気流に干渉しません。
F80のサイドボディに盛り込まれた様々な機能は、一つのソリューションにまとめられています。それはドアのアッパーボリュームと表現できる形状で、表面が徐々に低くなり、ボディワークと一体化した流路を形成しています。この流路の形状によって、フェンダーに沿って流れてきた気流は、フロント・タイヤで発生する高温の後流の影響から守られ、ドアの表面に沿ってボディ側面の先端にある吸気口に導かれます。このエア・インテークの上を覆う小型ウィングは、航空機の吸気口に見られるNACAダクトの特徴的な形状を再解釈したもので、空気の渦巻き運動を利用して、ダクトの上方を流れる気流の一部を捕らえるソリューションです。ここに入った空気はダクト内部で2つの流れに分割され、一方はエンジンの吸気システムに供給されて、ラム効果により5 cvの出力アップをもたらし、もう一方は吸気を冷却するインタークーラーと、リア・ブレーキの冷却で使われます。
最先端のCCM-R Plusディスクを中心に開発されたブレーキ・システムでも、最適な熱コンディションで機能するよう、エンジニアは革新的なソリューションを採用しました。フロント・シャシーの衝撃吸収用縦通材の内部空洞をフロント・ダクトとして利用して、バンパーから取り込んだ高エネルギーの低温の気流を、最も繊細なエレメントであるブレーキディスク、パッド、キャリパーへ導きます。フェラーリが特許を取得したこのソリューションによって、史上初めて、パッケージングを束縛していた要素が、冷却性能を最大限に高める手段に変わったのです。その効果で、フロントのエアロダイナミクスを一切損ねることなく、冷却用の気流がLaFerrariとの比較で20%も増大しました。
F80は、公道でもサーキットでも、あらゆる状況でビークル・ダイナミクスをマネージメントするため、現在利用できる最も先進的な数々のソリューションを装備しています。その中でもフェラーリのアクティブ・サスペンション・システムは、疑問の余地なく目玉の一つです。Ferrari Purosangueのバージョンから徹底的な再設計を行って、F80に宿るスーパーカーの魂に合わせて仕立て直しました。
完全な四輪独立サスペンションで、4個の48 Vモーターで作動し、ダブル・ウィッシュボーン・レイアウト、インボード式アクティブ・ダンパーを備えます。また、アッパー・ウィッシュボーンは、フェラーリのロードカーでは初めて、3Dプリントと積層造形技術を使って作られています。アクティブ・サスペンションには、レイアウトの最適化、車輪制御の精度向上、ばね下重量の削減に加えて、アンチロールバーが不要になり、専用のキャンバー角補正機能を導入できるといった、数多くの利点があります。
このシステムは、両立不可能に思える2つの要求を実現します。サーキットでは非常にフラットな乗り心地が必要で、ライドハイトの変動は最小限にしなければなりませんが、一般的な走行状況では、路面のバンプを効果的に吸収するしなやかな追従性が求められます。つまり、公道で抜群のドライバビリティーを誇ると同時に、考え得るあらゆる状況でダウンフォースを最適にマネージメントできるのです。
低速走行では、システムはメカニカル・バランスと重心の制御を優先しますが、車速が増すにつれて、ライドハイト制御システムが働き、アクティブ・エアロ・システムと連携しながら、それぞれのコーナリング状況に応じて最適な空力バランスを実現します。コーナー入口など、急激なブレーキング時には、ライドハイトの変動を最小限に抑え込んで、通常こうした状況で前方への荷重移動によって引き起こされる不安定な状態を防ぎます。一方、コーナリング中は、システムがダウンフォースの増加に貢献し、最適なバランスを維持します。コーナーを立ち上がる際には、リア寄りのバランスになる傾向をシステムが打ち消し、4輪すべてのトラクションと安定性にとって可能な限り最適な状態を保ちます。
もう一つF80で導入された大きな進化が、SSC 9.0(サイド・スリップ・コントロール)システムで、新たにFIVE(フェラーリ・インテグレーテッド・ビークル・エスティメーター)が統合されました。この新エスティメーターは、デジタルツインにあたる数理モデルをベースにしており、車載センサーで取得した変数を使って車両の挙動をバーチャルに検証します。
新システムは、既に前世代でも可能だったリアルタイムでのヨー・アングル推定に加えて、車両重心の速度も推定でき、それぞれ誤差1°、1 km/hに満たない精度で計算します。この新エスティメーターによって、トラクション・コントロールなど、車両に搭載するすべてのダイナミクス制御システムの性能が向上しました。
F80は、すべてのフェラーリPHEVモデルと同様、eマネッティーノを備え、ハイブリッド・パワートレインのドライビングモードには、「ハイブリッド」、「パフォーマンス」、「クオリファイ」の3種類があります。SF90 Stradaleと296 GTBに備えるeドライブモードはありません。F80の使命にはそぐわないと考え、EV走行能力を備えなかったからです。
車両を始動するとデフォルトで選択されているのが「ハイブリッド」モードで、日常的なあらゆる状況で効率性と使いやすさを実現するためのすべての機能が稼動します。このモードは、エネルギー回生とバッテリー充電量の維持を優先して、必要なときにMGU-Kモーターのブーストをより長く利用できるようにします。「パフォーマンス」モードは、サーキットにおける長い走行スティントで一定のパフォーマンスを継続的に発揮できるように設定されており、バッテリーへの電力の流れを最適化して、常に70%前後の充電量が維持されるようにします。「クオリファイ」は、最も過激なパフォーマンスモードで、ドライバーはF80の持てるパワーをすべて解き放つことができます。レブリミットでシフトアップする際に、電子制御トルク・シェイピングを使って、モーターとICEのトルクカーブを可能な限り最善の組み合わせで利用し、最大のパフォーマンスを引き出します。
eマネッティーノの「パフォーマンス」と「クオリファイ」モードでは、フェラーリはもとより自動車業界全体でも初めてとなる、まったく新しい機能を利用できます。それが「ブースト・オプティマイゼーション」で、走行中にコースを記録して、そのサーキットで最も必要な区間でパワーブーストを発揮する技術です。この機能を選択したら、ドライバーはまずコースを1周するレコノサンス・ラップを行います。システムはこの間にサーキットのコーナーやストレートを特定し、パワーデリバリーの最適化に必要なデータを収集します。このラップが終了した時点で、ドライバーからのアクションなしで、必要なパワーブーストを自動的に行う準備が整っています。ブースト・オプティマイゼーションがどのように発揮されるかは、モード選択によって決まります。「パフォーマンス」モードでは、一貫して利用できるパフォーマンスをできるだけ長く維持しますが、「クオリファイ」モードでは、高電圧バッテリーの充電量低下という代償を払っても、ブーストゾーンを最大限に広げます。
F80のブレーキ・システムにも、重要なイノベーションが導入されました。それは、ブレンボとのコラボレーションで開発したCCM-R Plus技術です。モータースポーツにおけるフェラーリの経験から直接取り入れた素材とテクノロジーによって、ほかのどんな公道用カーボン・セラミック製システムより明らかに優れたパフォーマンスを発揮する製品が形作られました。
CCM-R Plusは、長繊維のカーボン・ファイバーを使用することで、前世代のソリューションとの比較で機械的強度が+100%、熱伝導率が+300%と、大幅に向上しています。制動面はシリコンカーバイド(SiC)の層でコーティングし、これが驚異的な耐摩耗性をもたらすと同時に、慣らし時間も短縮しています。このディスクと共に働くブレーキパッドには、特殊な新コンパウンドが使われており、サーキットで長時間、激しく酷使しても、摩擦係数が驚くほど一定です。ブレーキディスクには、熱交換エリアが広がった2列の通気ダクトがあります。そのジオメトリーは、F1用ディスクを基に生まれたもので、先進的な流体解析(CFD)技術で最適化され、優れた冷却能力が確保されています。
タイヤは2種類から選択できます。ミシュランと共同でF80のために開発したPilot Sport Cup2とPilot Sport Cup2Rの別バージョンで、いずれもサイズはフロントが285/30 R20、リアが345/30 R21です。Pilot Sport Cup2タイヤは、刺激的なドライビング・エクスペリエンスと最大限の使いやすさを両立するよう特別に開発されたケーシングとトレッドを用いています。一方、Pilot Sport Cup2Rは、モータースポーツ用タイヤを基に生まれた特殊なコンパウンドを使用しています。サーキットで最大のグリップと長時間にわたる一貫性を発揮し、フェラーリのロードカーとして以前なら想像もできなかったレベルのパフォーマンスに到達することを可能にします。
加えて、限界で走行していないときにも、日常的な使いやすさを最大限に高めるため、F80は、先進運転支援システム(ADAS)の主な機能を標準で装備します。ストップ&ゴー機能付きアダプティブ・クルーズ・コントロール、自動緊急ブレーキ、レーン・デパーチャー・ウォーニング、レーン・キープ・アシスト、自動ハイビーム、トラフィックサイン・レコグニション、眠気や脇見を検知するドライバー・ドラウジネス&アテンション・ウォーニングが含まれます。
シャシーおよびボディシェル
シャシー
F80のシャシーは、タブやほかの要素も含め、マルチマテリアルの手法で開発され、個々のゾーンごとに、その役割に最も適した素材が使われています。セルとルーフはカーボン・ファイバーをはじめとするコンポジット製ですが、前後サブフレームはアルミニウム製で、チタン製ネジでタブに固定されています。リアには、バッテリーを搭載するため、追加のアルミニウム製サブフレームがあり、リアのメイン・サブフレームにネジ止めされています。
サブフレームは、端が閉じた押出材で構成され、鋳造材を使って組み合わされています。タブにはカーボン・ファイバー製の中空シルがあり、これが荷重を負担する主要エレメントとして働きます。ルーフはカーボン・ファイバー製で、形を整えたあとの硬化処理は、オートクレーブを使って1回の工程で行います。どちらの部分も、デュアル・チューブラー・ブラダーを使用するF1で生まれた革新的製法で作られています。タブとルーフはいずれも構造部材で、内層にカーボン・ファイバー、コア材にロハセル/ノーメックスを使うサンドイッチ構造パネルを使用しています。
LaFerrariと同様に、シルは側面衝突吸収構造として働きます。キャビンが非対称なレイアウトのため、タブの両サイドを個別に最適化できました。ドライバー側は調整可能なシートで幅広いポジションを取ることができ、運転中の快適性と側面衝突時の安全性が確保されています。そのため、フロアには数多くの構造パネルが必要となり、ドライバー側にはパッセンジャー側より長い衝撃吸収構造が配置されています。パッセンジャー側は重量セーブのため固定シートですが、どちらの乗員も妥協のない安全性で守られています。
フロントの衝撃吸収用アルミニウム製縦通材は、内部空洞がブレーキ・システムに冷却エアを送るダクトとして利用され、熱管理にも貢献しています。フェラーリは新たな鋳造ソリューションを共同で開発し、こういった鋳造物に適用されていた従来の最小肉厚(2.0 mm)を23%引き下げました。こうしたソリューションを合わせた結果、LaFerrariとの比較で重量を5%削減しながら、ねじり剛性とビーム剛性は50%向上しました。また、NVHも大幅に向上し、最大限に快適なドライビング・エクスペリエンスを実現しています。
ボディシェル
F80のボディシェルは完全な新設計です。F1などモータースポーツで使われる技術を採用して、プリプレグ・カーボン・ファイバーで成形し、オートクレーブで硬化処理します。フロント・ボンネットにはSダクトがあり、2枚のフロント・ウィングをつなぎ合わせる固定エレメントを備えます。
LaFerrariと同様、バタフライ・ドアが採用され、2軸で回転するヒンジ機構によって、ほぼ90°の角度まで縦方向に開きます。ドアの構造部は、側面衝突時に動的荷重を吸収する構造エレメントも兼ねており、特殊なハイパフォーマンス・カーボン・ファイバー製です。
リアのエンジン・カバーは、サイドビューに現れるドアのスタイリング要素を反映しており、V6エンジンからの高温の空気を排出する6個のスロットとグリルが設けられています。
F80は、フラヴィオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリング・センターのチームが創造的なデザイン研究を行った成果です。フェラーリのビジュアル要素をラディカルに変更して、フェラーリ・デザインの過去と未来を結びつけるものを模索しました。この研究では、数多くの多様なデザイン要素とフェラーリDNAとを融合させることを目指し、まず、フェラーリのF1マシンの美的側面に目を向けました。こうして、モダンで革新的なビジュアル・アイデンティティーを持ち、ドライバーとパッセンジャーを収容できる車両でありながら、シングルシーターの感覚を妥協なしで体感できるモデルを生み出すために、必要な方向性を見極めたのです。
F80のデザインは、こうしてつかんだ理念を基礎に、技術的インプットを得て開発され、大胆なまでにハイテクな印象となりました。プロジェクトの野心的な目標から、総合的手法を取る必要がありました。そのためF80のデザインプロジェクトでは、スタート段階から完全な完成形まで、エンジニアリング、エアロダイナミクス、人間工学の各部門とスタイリング・センターが常に密接な関係で仕事を進めました。プロジェクトは最初のスケッチを描き、より理論的なフォルムの研究を行う段階から始まり、このモデルの妥協のないパフォーマンスを視覚的に表現する完璧なものを目指して、フォルムとボリュームの最適なバランスを追求する中で、自然に方向がまとまり、進化していきました。
F80は、極めて未来的なインパクトのあるビジュアルで、航空宇宙分野をインスピレーションとしていることがはっきり感じられます。アーキテクチャーを特徴づけているのが、横断面に現れたディヘドラル形状で、その両端はタイヤでしっかり固定されています。横から見ると、リア・セクションは流れるように彫り込まれ、それがリア・フェンダー全体のたくましさを強調しています。一方、フロント・セクションはアーキテクチャーの要素が多く、ホイールアーチの末端には垂直なパネルがドアからそびえ立ち、F40のビジュアル要素にオマージュを捧げています。
ボディ下部から立ち上がるのがキャビンで、浮遊する泡を思わせるストラクチャーで意外性がありますが、これはアーキテクチャーとプロポーションを厳格に研究した結果です。キャビンはLaFerrariのグリーンハウスより50 mmも低く、ボリューム感に大きな影響を与えています。車両の肩幅が広がったことで、コックピットがいっそうコンパクトに見えます。
最新世代のフェラーリはすべてそうですが、ボディカラーのアッパーゾーンと、クリアコートを施したカーボン・ファイバー製のロワー・ゾーンとの対比がデザインを際立たせており、見るたびに新しい技術的側面が露わになります。デザイナーは、F80のフロントから人間の顔を思わせる要素を排除したいと考えました。そのため、ヘッドライトはバイザー・エレメントで隠しています。このブラック・スクリーンは、エアロダイナミクスと照明の機能を合わせ持ち、F80の外観を極めて独創的なものにしています。
リアのショートテールは、可動ウィングの格納時と展開時で、2種類の仕様に変化します。テールライトは、テールカバーとスポイラーから成る2層のストラクチャーにサンドイッチされるようにはめ込まれ、どちらの仕様でも非常にスポーティーな性格を感じさせます。
リア・スポイラーが持ち上がると、いっそうパワフルでダイナミックな表情を見せます。2種類の仕様で視覚的バランスが変化することで、このモデルの異なる側面が露わになるのです。機能上の要請は、デザインのビジュアル要素として昇華され、パフォーマンスとフォルムの完璧な対話が生まれています。機能的要素の中には、ビジュアル上の個性を決定づける上で非常に大きな役割を演じているものもあります。例えば、エンジン用インテークや側面ラジエーターに空気を導くNACAダクトは、機能的であると同時にアイコニックであり、サイドボディの中で特に独創的なスタイリング要素になっています。
ほかにも機能的でありながら非常に象徴的でもある要素として、ルーバーで覆われたエンジン・コンパートメントの背骨部分があります。6個のスロットは、内燃エンジンの各気筒に対応しており、幾何学的ラインと彫刻的な面の間に思いがけない関係が生まれています。
インテリア
キャビンのコンパクトなサイズは、シングルシーターのレーシングカーをインスピレーションにして、クローズコックピットのF1マシンといった印象を作り出すことで実現しました。デザイナー、エンジニア、人間工学のスペシャリスト、カラーとトリムのエキスパートが長期にわたる開発を重ねた結果、ドライバーをキャビンの紛れもない主役にして「1+」モデルに変貌させるという、独創的な新ソリューションが誕生しました。
コックピットは、ドライバーをすべての中心に据えて、完全に包み込む形状をしており、操作用インストゥルメント・パネルに向けて収束するフォルムです。操作パネルも、人間工学に基づいてドライバーに向いており、コクーンの印象を作り出しています。
パッセンジャー・シートは、人間工学に完璧に即した快適なものですが、キャビンのトリムと完全に融合しているため、ほとんど視界から消えて見えます。これには、ドライバー・シートとほかのトリムを、使用する色と素材で巧妙に差別化したことも貢献しています。
乗員2人のシートを前後にオフセットし、パッセンジャー・シートをドライバー・シートより後方に配置したことで、車内空間の幅を狭めても、人間工学や快適性は損なわれていません。デザイナーはこのソリューションによって、キャビンを縮小し、前面投影面積を削減できたのです。
F80は、このモデル専用に開発された新ステアリング・ホイールも装備しています。これは、跳ね馬の今後の公道用モデルでも目にすることになるでしょう。従来よりわずかに小さく、上下のリムがフラットになり、ステアリング・ボスも縮小されているため、視界が向上し、運転中のスポーティーな感覚が強調されます。リムの両サイドは、ドライビング・グローブの有無にかかわらず、しっかりしたグリップとなるよう最適化されています。ステアリング・ホイールの左右スポークには、物理的なボタンが復活しました。近年のフェラーリで使われていたフル・デジタルのレイアウトから、触れただけですぐに分かる使いやすいボタンに変更されています。
フェラーリ・スーパーカーでは初めて、シートの背後に24時間分のスーツケースが入る広いスペースが確保され、固定用メッシュとストラップが付いています。収納メッシュはパッセンジャーのフットウェルにも備えます。
7年間純正メンテナンス・プログラム
卓越した品質基準と、さらなるカスタマー・サービスの充実を重視するフェラーリでは、F80に7年間の純正メンテナンス・プログラムをご用意しております。フェラーリの全ラインアップを対象とし、今回初めてスーパーカーにも提供されたこのプログラムは、最初の車両登録から7年間、お客様のフェラーリのパフォーマンスと安全性が最高の状態で維持されるべく、すべての定期メンテナンスを保証するフェラーリならではのサービスです。この特別なサービスは、認定中古車を購入されたお客様にもご利用いただけます。
定期メンテナンス(20,000 kmごと、もしくは毎年1回。走行距離の制限なし)では、純正スペアパーツおよび最新の診断テスターを使い、マラネッロのフェラーリ・トレーニング・センターで研修を受けた有資格者による詳細な検査を受けていただけます。これは純正メンテナンス・プログラムの魅力の一つにすぎません。このサービスは、全世界の市場で展開する正規ディーラー・ネットワークにてご利用いただけます。
マラネッロで製造された車両が誇る優れた性能と素晴らしさの維持を願うお客様に向けて、フェラーリはこれまで展開してきた幅広いアフターセールス・サービスに加えて、この純正メンテナンス・プログラムを導入し、さらなるサービスの向上に努めています。
Ferrari F80 – 技術諸元
内燃エンジン(ICE)
タイプ V6 – 120° – ドライサンプ式
総排気量 2992 cc
ボア・ストローク 88 mm x 82 mm
最高出力 900 cv / 8750 rpm
最大トルク 850 Nm / 5550 rpm
最高許容回転数 9000 rpm(動的リミッター9200 rpm)
圧縮比 9.5:1
比出力 300 cv/L
ハイブリッド・パワートレイン
タイプ リッツ線集中巻きステーター、ステーターおよびローターはハルバッハ配列
リア電気モーター(MGU-K)
作動電圧 650 – 860 V
最高出力 回生ブレーキ:70 kW(95 cv)、ICEアシスト:60 kW(81 cv)
最大トルク 45 Nm
最高回転数 30,000 rpm
重量 8.8 kg
フロント・アクスル電気モーター
作動電圧 650 – 860 V
最高出力 各105 kW(142 cv)
最大トルク 121 Nm
最高回転数 30,000 rpm
重量 12.9 kg
高電圧バッテリー
最大電圧 860 V
最高出力(充電・放電) 242 kW
容量 2.28 kWh
最大電流 350 A
出力密度 6.16 kW/kg
重量 39.3 kg
サイズ&重量
全長 4840 mm
全幅 2060 mm
全高(車両重量の状態) 1138 mm
ホイールベース 2665 mm
フロント・トレッド 1701 mm
リア・トレッド 1660 mm
乾燥重量* 1525 kg
乾燥パワーウェイト・レシオ 1.27 kg/cv
重量配分 42.2%フロント / 57.8%リア
燃料タンク容量 63.5 L
トランク容量 35 L
タイヤ&ホイール
フロント 285/30 R20
リア 345/30 R21
ブレーキ
フロント 408 x 220 x 38 mm(6ピストン・キャリパー)
リア 390 x 263 x 32 mm(4ピストン・キャリパー)
トランスミッション&ギアボックス
8速デュアルクラッチF1 DCT
電子制御
SSC 9.0:TC、eDiff、SCM、PCV 3.0、FDE 2.0、EPS、ABS-Evo(マネッティーノの全ポジションで稼動)、6Dセンサー、
高性能ABS/ABD
パフォーマンス
最高速度 350 km/h
0–100 km/h 2.15秒
0–200 km/h 5.75秒
100-0 km/h 28 m
200-0 km/h 98 m
燃料消費量
ホモロゲーション取得申請中
CO2排出量
ホモロゲーション取得申請中
* 追加オプション装備車